【令和のマストバイヴィンテージ Vol.29】 今買っておくべき名品は? by  Naoaki Tobe
Category: COLUMN
VCM inc./
代表取締役 十倍直昭

2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。

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【令和のマストバイヴィンテージ Vol.29】
今買っておくべき名品は?

by Naoaki Tobe
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by Naoaki Tobe

vol.29 フェードスウェット編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第29回はフェードスウェット編。

多様化するヴィンテージ古着の価値観

 今回紹介するのは、フェードスウェット。フェード(fade)には「(色が)薄れる」という意味があります。その名の通り、色褪せしてしまったただのスウェットのように見えますが、実はヴィンテージ古着における価値観の多様化を表す重要なアイテムと言えるんです。

 一概には言えませんが、一般的にヴィンテージ業界で価値が高いとされるのは、製造された年代が「古い」アイテムです。古いアイテムの素材やディティールを見ると、ヴィンテージ愛好家のテンションは上がるもの。そして、次に価値が高いとされるのが「状態の良さ」です。最も状態が良いヴィンテージと言えるのが、デッドストックのアイテム。アメリカの片田舎の衣料品店で、発売当時から長い間売れず、いつしかその存在すら忘れられ、倉庫の奥でホコリを被っている「リーバイス(Levi’s®)」の501XXを見つけ出すのが、ヴィンテージバイヤーの醍醐味でした。

 「古い=正義」はアイテムに関わらずヴィンテージの基礎と言える価値観なので、今のヴィンテージ古着業界でもその考え方は変わってはいないのですが、実は近年「ヴィンテージ」の対象がどんどん拡大しているのです。例えば、日本で最初にヴィンテージ古着が大きなブームとなった1990年代に、ヴィンテージと呼ばれていたのは、ジーンズやスウェット、ミリタリーアイテムやスニーカーなどの限られたアイテムのみ(もちろん細かく言えばもっとあります)で、年代も1970年代以前に製造されたものが主な対象でした。

 ですが、2000年代以降にヴィンテージ古着の価値観がどんどん多様化していき、様々なアイテムが「ヴィンテージ」と呼ばれるようになっていきます。当連載で紹介した「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」に代表されるデザイナーズアーカイヴや、「AKIRA」や「新世紀エヴァンゲリオン」といったアニメTシャツなどが、その代表例と言えるでしょう。

 前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するフェードスウェットも、ヴィンテージ古着の価値観の多様化を表すアイテム。この赤いパーカは、色が褪せているうえに、穴が空いていたり、首周りが擦り切れていたりと、多数のダメージが見られます。一昔前までは、このようなダメージがあると、そのアイテムの価格が下がることもありました。ですが、最近はこういったダメージもアジやデザインとしてポジティブに受け入れられるようになっているんです。

 フェードスウェットのなかで、人気の双璧と言える色が「墨黒」と「茄子紺」です。前者はブラックが、後者はネイビーがフェードした色のことで、フェードが今のように人気になる前から評価をされていましたが、最近は「墨黒」「茄子紺」以外のカラーも、良いフェードのアイテムは高く評価されるようになっています。

 ヴィンテージジーンズが、「ヒゲ」や「ハチノス」などの色落ちの具合で評価が大きく変わるように、ヴィンテージスウェットもそのフェードやダメージの具合で大きく評価が変わる時代になっています。今はデッドストックではなく、自分が理想とする唯一無二のフェードスウェットを血眼になって探している人も多いんです。ボディの生地がしっかりしていながら全体が綺麗にフェードしているアイテムが一般的に評価が高いのですが、プリントの割れ具合や空いた穴の大きさ、場所を重視する人もいて、その価値観は本当に多種多様です。

フェードアイテムの評価が高まったワケ

 では、なぜ現在のようにフェードアイテムの評価が高まったのか。様々な要因があると思いますが、僕は「グランジ」の影響が少なくないと考えています。グランジは、アメリカのロックバンド ニルヴァーナ(Nirvana)のフロントマンであるカート・コバーン(Kurt Cobain)が震源地となったファッションです。ボロボロのジーンズやヨレヨレのネルシャツなど、当時の若者の普段着でステージに上がった彼のスタイルは、1990年代以降のファッションシーンに大きな影響を与えました。着古した服もクールである、という価値観を広く浸透させたグランジの存在がなければ、今のようなフェードアイテムの人気も生まれなかったのでは、と思います。また、ラグジュアリーブランドをはじめ多くのブランドが、ダメージ加工のアイテムを打ち出すようになったことも無関係ではないでしょう。このような価値観の変化に伴って、フェードアイテムのヴィンテージとしての価値が高まったのでは、というのが僕の見立てです。

 1940年代から70年代にかけて作られた古いスウェットには、良いフェードが生まれる傾向があるようです。その頃使われていた生地や染料が影響していると見られ、1990年代以降の作りがしっかりしたアイテムになると、良いフェードの個体は見つかりづらくなります。それに加え、アメリカ西海岸のような強い日差しが、綺麗なフェードを生むために重要な要素のひとつだろうと、僕は考えています。

 とはいえ、年代の浅いアイテムでも、フェードスウェットが全く見つからない訳ではありませんし、そういうアイテムは比較的価格が手頃なのが魅力です。例えば、1990年代の「ラッセル(RUSSEL)」のスウェットならば、アンダー1万円で良いフェードの個体を見つけることも可能でしょう。また、ジーンズのように、フェードスウェットを自分で「育てる」という楽しみ方もあると思います。

 フェードが評価されるようになったということは、「短所」が「長所」として受け入れられるようになったということ。今、市場に流通している古着でも「短所」があるせいで人気がない、価格が低いアイテムはたくさんあります。そんなアイテムに、自分なりの「長所」を見出して愛用することも、古着の醍醐味です。今回紹介したフェードスウェットは、コレクターのベロアムさんからお借りしました。これを機会に、是非皆さんもお気に入りのフェードアイテムを探してみて下さい。

vol.29 フェードスウェット編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第29回はフェードスウェット編。

多様化するヴィンテージ古着の価値観

 今回紹介するのは、フェードスウェット。フェード(fade)には「(色が)薄れる」という意味があります。その名の通り、色褪せしてしまったただのスウェットのように見えますが、実はヴィンテージ古着における価値観の多様化を表す重要なアイテムと言えるんです。

 一概には言えませんが、一般的にヴィンテージ業界で価値が高いとされるのは、製造された年代が「古い」アイテムです。古いアイテムの素材やディティールを見ると、ヴィンテージ愛好家のテンションは上がるもの。そして、次に価値が高いとされるのが「状態の良さ」です。最も状態が良いヴィンテージと言えるのが、デッドストックのアイテム。アメリカの片田舎の衣料品店で、発売当時から長い間売れず、いつしかその存在すら忘れられ、倉庫の奥でホコリを被っている「リーバイス(Levi’s®)」の501XXを見つけ出すのが、ヴィンテージバイヤーの醍醐味でした。

 「古い=正義」はアイテムに関わらずヴィンテージの基礎と言える価値観なので、今のヴィンテージ古着業界でもその考え方は変わってはいないのですが、実は近年「ヴィンテージ」の対象がどんどん拡大しているのです。例えば、日本で最初にヴィンテージ古着が大きなブームとなった1990年代に、ヴィンテージと呼ばれていたのは、ジーンズやスウェット、ミリタリーアイテムやスニーカーなどの限られたアイテムのみ(もちろん細かく言えばもっとあります)で、年代も1970年代以前に製造されたものが主な対象でした。

 ですが、2000年代以降にヴィンテージ古着の価値観がどんどん多様化していき、様々なアイテムが「ヴィンテージ」と呼ばれるようになっていきます。当連載で紹介した「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」に代表されるデザイナーズアーカイヴや、「AKIRA」や「新世紀エヴァンゲリオン」といったアニメTシャツなどが、その代表例と言えるでしょう。

 前置きが長くなりましたが、今回ご紹介するフェードスウェットも、ヴィンテージ古着の価値観の多様化を表すアイテム。この赤いパーカは、色が褪せているうえに、穴が空いていたり、首周りが擦り切れていたりと、多数のダメージが見られます。一昔前までは、このようなダメージがあると、そのアイテムの価格が下がることもありました。ですが、最近はこういったダメージもアジやデザインとしてポジティブに受け入れられるようになっているんです。

 フェードスウェットのなかで、人気の双璧と言える色が「墨黒」と「茄子紺」です。前者はブラックが、後者はネイビーがフェードした色のことで、フェードが今のように人気になる前から評価をされていましたが、最近は「墨黒」「茄子紺」以外のカラーも、良いフェードのアイテムは高く評価されるようになっています。

 ヴィンテージジーンズが、「ヒゲ」や「ハチノス」などの色落ちの具合で評価が大きく変わるように、ヴィンテージスウェットもそのフェードやダメージの具合で大きく評価が変わる時代になっています。今はデッドストックではなく、自分が理想とする唯一無二のフェードスウェットを血眼になって探している人も多いんです。ボディの生地がしっかりしていながら全体が綺麗にフェードしているアイテムが一般的に評価が高いのですが、プリントの割れ具合や空いた穴の大きさ、場所を重視する人もいて、その価値観は本当に多種多様です。

フェードアイテムの評価が高まったワケ

 では、なぜ現在のようにフェードアイテムの評価が高まったのか。様々な要因があると思いますが、僕は「グランジ」の影響が少なくないと考えています。グランジは、アメリカのロックバンド ニルヴァーナ(Nirvana)のフロントマンであるカート・コバーン(Kurt Cobain)が震源地となったファッションです。ボロボロのジーンズやヨレヨレのネルシャツなど、当時の若者の普段着でステージに上がった彼のスタイルは、1990年代以降のファッションシーンに大きな影響を与えました。着古した服もクールである、という価値観を広く浸透させたグランジの存在がなければ、今のようなフェードアイテムの人気も生まれなかったのでは、と思います。また、ラグジュアリーブランドをはじめ多くのブランドが、ダメージ加工のアイテムを打ち出すようになったことも無関係ではないでしょう。このような価値観の変化に伴って、フェードアイテムのヴィンテージとしての価値が高まったのでは、というのが僕の見立てです。

 1940年代から70年代にかけて作られた古いスウェットには、良いフェードが生まれる傾向があるようです。その頃使われていた生地や染料が影響していると見られ、1990年代以降の作りがしっかりしたアイテムになると、良いフェードの個体は見つかりづらくなります。それに加え、アメリカ西海岸のような強い日差しが、綺麗なフェードを生むために重要な要素のひとつだろうと、僕は考えています。

 とはいえ、年代の浅いアイテムでも、フェードスウェットが全く見つからない訳ではありませんし、そういうアイテムは比較的価格が手頃なのが魅力です。例えば、1990年代の「ラッセル(RUSSEL)」のスウェットならば、アンダー1万円で良いフェードの個体を見つけることも可能でしょう。また、ジーンズのように、フェードスウェットを自分で「育てる」という楽しみ方もあると思います。

 フェードが評価されるようになったということは、「短所」が「長所」として受け入れられるようになったということ。今、市場に流通している古着でも「短所」があるせいで人気がない、価格が低いアイテムはたくさんあります。そんなアイテムに、自分なりの「長所」を見出して愛用することも、古着の醍醐味です。今回紹介したフェードスウェットは、コレクターのベロアムさんからお借りしました。これを機会に、是非皆さんもお気に入りのフェードアイテムを探してみて下さい。