代表取締役 十倍直昭
2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
https://www.instagram.com/naoaki_tobe/【令和のマストバイヴィンテージ Vol.27】
by Naoaki Tobevol.27 BDUブラック357編
とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。
でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第27回はBDUブラック357編。
1年間のみ製造された、ブラックカラーのミリタリーウェア
ミリタリーウェアはヴィンテージ古着の象徴的な存在です。熱狂的なマニアも多く、名作には枚挙にいとまがありませんが、今回はヴィンテージ初心者でも気軽に楽しめるアイテムを紹介します。アメリカ軍の通称「ブラック357」です。
ベースとなっているのは、アメリカ軍が1981年に開発したBDUジャケットとBDUパンツというアイテム。米陸軍では2008年、空軍では2011年、海軍では2012年まで標準戦闘服として着用されていた、ミリタリーウェアの超名作です。BDUはBattle Dress Uniform(バトル・ドレス・ユニフォーム)の略。1960年代に開発された、同じ4ポケットデザインのジャングルファティーグとよく比較されますが、ポケットが斜めに付いているジャングルファティーグに対し、BDUはポケットがフラットに付いているので、よりニュートラルな雰囲気。袖に付けられているボディと同生地のエルボーパッチは、奥行きのある印象を生み出します。
一般的に流通しているBDUジャケット、BDUパンツは迷彩柄やオリーブ色のものが中心ですが、ブラック357はその通称が物語るように、アメリカ軍のミリタリーウェアで初めて採用されたブラックカラーが特徴です。特殊部隊やSWATが着用したもので、1997年の1年間しか製造されなかったと言われています。とはいえ、ブラック357自体はそれほど高価ではありません。相場はジャケットで2万円前後、パンツで1万円前後と、これまで紹介してきたヴィンテージに比べると手を出しやすい価格です。ただ、一部のサイズはやや高価になっています。ジャケットは着丈をロング、ミディアム、ショートから選べるのですが、僕が好きな「ラージショート」という身幅が大きくて丈が短い個体は4〜5万円ほどが相場です。
意外と知らない?黒が「ファッションの色」になった経緯
ヴィンテージのミリタリーウェアは個人的に大好きなアイテム。ミリタリーウェアは合わせ方によっては印象が強くなり過ぎてしまうことがありますが、このブラック357はミリタリーウェアでは珍しく「都会的」に着られるデザインなので、非常にありがたいんです。アメカジ、アウトドア、ストリートなど、どんなアイテムとも合わせてもスタイリッシュな印象に仕上がります。
黒は都会的で洗練されたスタイリッシュな色、というイメージをお持ちの方は少なくないと思います。なぜ黒にはそのようなイメージがあるのでしょうか。ファッション的な視点から少し深堀りしてみましょう。実は黒は、長らくファッションに用いられない色でした。特に西洋では、昔から黒は「死」や「罪」などの不吉なイメージが強かったんです。日本でも、喪服は黒ですよね。そのようにあまり良い印象がなかった黒を初めてファッションに取り入れたのが、ラグジュアリーブランド「シャネル(CHANEL)」の創始者、ココ・シャネル(COCO CHANEL)です。1926年にシャネルがリトル・ブラック・ドレスを発表したことで「黒はファッションの色」というイメージを持たれるようになりました。
ですが、その後訪れた第二次世界大戦の時代、多くの国家で台頭していたファシスト運動において、黒は党員のユニフォームや軍服などに使われるようになります。こうして、黒の服は再びネガティブな印象を持たれるようになりました。
そんな黒に革命を起こしたのが、皆さんご存知 川久保玲さんの「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」と、山本耀司さんの「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」による「黒の衝撃」です。1980年代当時、ヨーロッパのファッションはカラフルな色が主流でしたが、2人は黒をメインカラーに据えたファッションを提案し、世界に大きなインパクトを与えました。以降、本格的に黒に対してファッションの色、都会的で洗練された色というイメージが定着したんです。
BDUジャケットもBDUパンツも、もともとは機能性を重視したウェアですが、黒になった途端に一気に洗練された雰囲気になります。軽くて薄い上に丈夫で、コットンとナイロンの混紡素材によるリップストップ生地は、洗い込むと良いエイジングが生まれてきます。今でしたらデッドストックでも入手することができるので、是非チェックしてみてください。 編集:山田耕史 語り:十倍直昭