【令和のマストバイヴィンテージ Vol.22】 今買っておくべき名品は? by  Naoaki Tobe
Category: COLUMN
全てヴィンテージショップ「LEAD」オーナー高雄氏私物
ブラック×ピンクというヴィンテージで人気の高い配色にも惹かれます
ギャルソンらしいブラックカラーと「田中オム」らしいリラックスシルエットが融合した一着
グレー地にホワイトのブランドネーム
「AD2000」表記なので2000年に製造されたアイテム
VCM inc./
代表取締役 十倍直昭

2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。

https://www.instagram.com/naoaki_tobe/
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【令和のマストバイヴィンテージ Vol.22】
今買っておくべき名品は?

by Naoaki Tobe
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by Naoaki Tobe

vol.22 コム デ ギャルソン オム シャツ編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第22回は「コム デ ギャルソン オム(COMME des GARÇONS HOMME)」シャツ編。

異色の経歴のデザイナー 田中啓一が手掛けた「田中オム」の魅力とは?

 日本を代表するファッションブランドである、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」。名前くらいは聞いたことがあるけど、実際はどんなブランドなのかよく知らない、なんて方も少なくないと思うので、同ブランドの歴史をざっとご紹介しましょう。

 コム デ ギャルソンの創業者は川久保玲さん。川久保さんは繊維メーカーの宣伝部に勤務した後、当時非常に珍しかったフリーランスのスタイリストとして独立しますが、「スタイリングをするときに必要な服が見つからない」という理由から、1969年にコム デ ギャルソンを設立します。1975年に原宿で初のファッションショーを行い、同年に青山に直営店をオープンするなど、国内で徐々にビジネスを拡大し、1981年にパリに進出。当時、パリでは鮮やかな色、くびれたウエストなど、いわゆる女性らしさを強調するファッションが主流でしたが、コム デ ギャルソンは1982年秋冬コレクションで、全身黒一色、服に穴が空いていたり、生地がほつれていたりする、当時のファッションの常識では考えられなかった斬新なスタイルを打ち出し、同時期にパリに進出した「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」とともに、「黒の衝撃」としてその後の世界のファッションに多大な影響を与えました。それから40年以上経った今もなお、コム デ ギャルソンは年に2回パリで新作を発表していますが、毎シーズンクリエイティビティに溢れた服を創造し続ける川久保さんは、世界中からリスペクトを集めています。

 コム デ ギャルソン オムは、コム デ ギャルソン初のメンズブランドとして1978年に設立されました。当初は川久保さんがデザイナーを務めていましたが、1990年からは田中啓一さんがデザイナーを担当。今回紹介するのは、田中さんがデザイナーを務めていた頃のコム デ ギャルソン オム、通称「田中オム」のシャツです。田中さんは大学の工学部を卒業して機械系の会社でエンジニアとして働いた後、文化服装学院に入学。日本のメンズブランドでデザイナーを務めた後に、コム デ ギャルソンに入社しましたが、入社後すぐにコム デ ギャルソン オムのデザイナーに抜擢されたという異色の経歴の持ち主。デザイナー就任に際して川久保さんから田中さんに伝えられたのが「グッド・テイストの服を作ってほしい」という言葉でした。

 川久保さんは、1984年からメンズブランド「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」のデザインを手掛けました。「プリュス」はウィメンズのコム デ ギャルソン同様、パリコレクションで前衛的な作品を発表しており、普通の人が日常的に着るには難しい、奇抜なアイテムも少なくありません。それに対し「田中オム」は、田中さんが過去に「大人の男が着て恥ずかしくない、でもどこかに必ず新しさがある服」と語っているように、新鮮な要素を取り入れながらも比較的落ち着いたデザイン。普段の生活に馴染みやすいアイテムが多いんです。ちなみに、今回ご紹介するシャツは、コム デ ギャルソンのシャツをコレクションされている広島のショップ「リード(LEAD)」のオーナー、高雄大善さんからお借りしています。僕もこれまで何着かリードで「田中オム」のシャツを購入しましたが、どれもお気に入りでよく着用しています。

「田中オム」がヴィンテージスタイルと相性が良い理由

 個性的なデザインに目が行きがちですが、コム デ ギャルソンは生地や縫製などの「服づくりの基礎」とも言える部分へのこだわりが非常に強いブランド。特に僕が好きなのが「田中オム」のシャツに用いられているボタンです。ちょっと大きかったり、面白い素材が使われていたりと、特徴あるボタンが多いんですが、服全体として見ると絶妙なバランスに仕上がっており、素材、色、大きさなどに細心の注意を払って選ばれていることがよく分かります。

 コム デ ギャルソンは、長い時間をかけて生地を作り込むことでも有名です。こちらの生地はギンガムチェック柄に刺繍やプリントを加えたもの。開襟とレギュラーカラーの2種類のバリエーションがあり(もしかしたらもっと存在していたかもしれません)、それぞれデザインが微妙に異なっているのも、ファッション好きには堪らないでしょう。

 コム デ ギャルソンは世界中で大人気のブランドなので、そのアーカイヴも高く評価されていますが、僕が提案したいのは、デニムやミリタリーなどのヴィンテージに「田中オム」を合わせるスタイリング。数あるコム デ ギャルソンのアーカイヴのなかでも、「田中オム」にはヴィンテージと合わせやすいアイテムが多いんですが、その理由はシルエットにあります。全体的にゆったりとしたボックスシルエットなので、ヴィンテージスタイルにすんなり馴染むんです。特にシャツは、カジュアルなコーディネートと相性が良い開襟や、裾が真っ直ぐなスクエアカットのアイテムが多く、コーディネートに取り入れやすいです。

 ファッションの好みは人それぞれですが、僕は全身をヴィンテージアイテムで固めることはあまりやりません。「エルメス(HERMÈS)」のようなラグジュアリーブランドや、「ステューシー(STÜSSY)」のようなストリートブランド、そしてコム デ ギャルソンのようなデザイナーズブランドとミックスして、化学反応が生まれることを楽しんでいます。

 一時代を築いた田中さんは、2003年にコム デ ギャルソンを退社。その後「コム デ ギャルソン オム」は、現在に至るまで「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」などを手掛ける渡辺淳弥さんがデザイナーを務めていますが、「田中オム」の頃とは雰囲気がかなり変わっています。

 「田中オム」に興味が湧いた人は、アイテムのタグや内タグに注目してみてください。「コム デ ギャルソン」のアイテムはタグや内タグで年代判別が可能。例えば「田中オム」のシャツはグレー地にホワイトの文字が目印です。また、「コム デ ギャルソン」のアイテムの多くは内タグに製造年が「AD◯◯◯◯」といった書き方で記されているので、そこからも「田中オム」であるかどうかが判別できます。

 状態やデザインにもよりますが、「田中オム」のシャツの相場は手に取りやすいものならば3万円前後から。以前に比べるとかなり高くなっていますが、元々の定価が高いアイテムなので、考えようによってはお買い得と言えるのではないかと思います。

vol.22 コム デ ギャルソン オム シャツ編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第22回は「コム デ ギャルソン オム(COMME des GARÇONS HOMME)」シャツ編。

異色の経歴のデザイナー 田中啓一が手掛けた「田中オム」の魅力とは?

 日本を代表するファッションブランドである、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」。名前くらいは聞いたことがあるけど、実際はどんなブランドなのかよく知らない、なんて方も少なくないと思うので、同ブランドの歴史をざっとご紹介しましょう。

 コム デ ギャルソンの創業者は川久保玲さん。川久保さんは繊維メーカーの宣伝部に勤務した後、当時非常に珍しかったフリーランスのスタイリストとして独立しますが、「スタイリングをするときに必要な服が見つからない」という理由から、1969年にコム デ ギャルソンを設立します。1975年に原宿で初のファッションショーを行い、同年に青山に直営店をオープンするなど、国内で徐々にビジネスを拡大し、1981年にパリに進出。当時、パリでは鮮やかな色、くびれたウエストなど、いわゆる女性らしさを強調するファッションが主流でしたが、コム デ ギャルソンは1982年秋冬コレクションで、全身黒一色、服に穴が空いていたり、生地がほつれていたりする、当時のファッションの常識では考えられなかった斬新なスタイルを打ち出し、同時期にパリに進出した「ヨウジヤマモト(Yohji Yamamoto)」とともに、「黒の衝撃」としてその後の世界のファッションに多大な影響を与えました。それから40年以上経った今もなお、コム デ ギャルソンは年に2回パリで新作を発表していますが、毎シーズンクリエイティビティに溢れた服を創造し続ける川久保さんは、世界中からリスペクトを集めています。

 コム デ ギャルソン オムは、コム デ ギャルソン初のメンズブランドとして1978年に設立されました。当初は川久保さんがデザイナーを務めていましたが、1990年からは田中啓一さんがデザイナーを担当。今回紹介するのは、田中さんがデザイナーを務めていた頃のコム デ ギャルソン オム、通称「田中オム」のシャツです。田中さんは大学の工学部を卒業して機械系の会社でエンジニアとして働いた後、文化服装学院に入学。日本のメンズブランドでデザイナーを務めた後に、コム デ ギャルソンに入社しましたが、入社後すぐにコム デ ギャルソン オムのデザイナーに抜擢されたという異色の経歴の持ち主。デザイナー就任に際して川久保さんから田中さんに伝えられたのが「グッド・テイストの服を作ってほしい」という言葉でした。

 川久保さんは、1984年からメンズブランド「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」のデザインを手掛けました。「プリュス」はウィメンズのコム デ ギャルソン同様、パリコレクションで前衛的な作品を発表しており、普通の人が日常的に着るには難しい、奇抜なアイテムも少なくありません。それに対し「田中オム」は、田中さんが過去に「大人の男が着て恥ずかしくない、でもどこかに必ず新しさがある服」と語っているように、新鮮な要素を取り入れながらも比較的落ち着いたデザイン。普段の生活に馴染みやすいアイテムが多いんです。ちなみに、今回ご紹介するシャツは、コム デ ギャルソンのシャツをコレクションされている広島のショップ「リード(LEAD)」のオーナー、高雄大善さんからお借りしています。僕もこれまで何着かリードで「田中オム」のシャツを購入しましたが、どれもお気に入りでよく着用しています。

ブラック×ピンクというヴィンテージで人気の高い配色にも惹かれます

「田中オム」がヴィンテージスタイルと相性が良い理由

 個性的なデザインに目が行きがちですが、コム デ ギャルソンは生地や縫製などの「服づくりの基礎」とも言える部分へのこだわりが非常に強いブランド。特に僕が好きなのが「田中オム」のシャツに用いられているボタンです。ちょっと大きかったり、面白い素材が使われていたりと、特徴あるボタンが多いんですが、服全体として見ると絶妙なバランスに仕上がっており、素材、色、大きさなどに細心の注意を払って選ばれていることがよく分かります。

 コム デ ギャルソンは、長い時間をかけて生地を作り込むことでも有名です。こちらの生地はギンガムチェック柄に刺繍やプリントを加えたもの。開襟とレギュラーカラーの2種類のバリエーションがあり(もしかしたらもっと存在していたかもしれません)、それぞれデザインが微妙に異なっているのも、ファッション好きには堪らないでしょう。

 コム デ ギャルソンは世界中で大人気のブランドなので、そのアーカイヴも高く評価されていますが、僕が提案したいのは、デニムやミリタリーなどのヴィンテージに「田中オム」を合わせるスタイリング。数あるコム デ ギャルソンのアーカイヴのなかでも、「田中オム」にはヴィンテージと合わせやすいアイテムが多いんですが、その理由はシルエットにあります。全体的にゆったりとしたボックスシルエットなので、ヴィンテージスタイルにすんなり馴染むんです。特にシャツは、カジュアルなコーディネートと相性が良い開襟や、裾が真っ直ぐなスクエアカットのアイテムが多く、コーディネートに取り入れやすいです。

 ファッションの好みは人それぞれですが、僕は全身をヴィンテージアイテムで固めることはあまりやりません。「エルメス(HERMÈS)」のようなラグジュアリーブランドや、「ステューシー(STÜSSY)」のようなストリートブランド、そしてコム デ ギャルソンのようなデザイナーズブランドとミックスして、化学反応が生まれることを楽しんでいます。

 一時代を築いた田中さんは、2003年にコム デ ギャルソンを退社。その後「コム デ ギャルソン オム」は、現在に至るまで「ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)」などを手掛ける渡辺淳弥さんがデザイナーを務めていますが、「田中オム」の頃とは雰囲気がかなり変わっています。

 「田中オム」に興味が湧いた人は、アイテムのタグや内タグに注目してみてください。「コム デ ギャルソン」のアイテムはタグや内タグで年代判別が可能。例えば「田中オム」のシャツはグレー地にホワイトの文字が目印です。また、「コム デ ギャルソン」のアイテムの多くは内タグに製造年が「AD◯◯◯◯」といった書き方で記されているので、そこからも「田中オム」であるかどうかが判別できます。

 状態やデザインにもよりますが、「田中オム」のシャツの相場は手に取りやすいものならば3万円前後から。以前に比べるとかなり高くなっていますが、元々の定価が高いアイテムなので、考えようによってはお買い得と言えるのではないかと思います。