【令和のマストバイヴィンテージ Vol.21】 今買っておくべき名品は? by  Naoaki Tobe
Category: COLUMN
VCM inc./
代表取締役 十倍直昭

2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。

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【令和のマストバイヴィンテージ Vol.21】
今買っておくべき名品は?

by Naoaki Tobe
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by Naoaki Tobe

vol.21 アディダス レザートラックスーツ編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第21回は「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」レザートラックスーツ編。

良い意味の「チープさ」、都会的なラン・ディーエムシースタイル

 長い夏が終わり、ようやく涼しい日が増えてきましたね。重ね着が楽しい秋冬シーズン、どんな服を着ようかと楽しみにしている方も多いと思います。今回紹介する1980年代のアディダスのレザートラックスーツは、この秋冬に僕が是非着たいと思っている一着です。

 トラックスーツというのは、トラックジャケットとトラックパンツのセットアップ、平たく言えばジャージの上下のこと。アディダスのレザートラックスーツと言えば、多くの人が思い浮かべるのがアメリカのヒップホップグループ、ラン・ディーエムシー(Run-D.M.C.)ではないでしょうか。ファーストアルバムがヒップホップで初のゴールドディスクを獲得するなど、数々の音楽的な偉業を達成したミュージシャンであることはもちろん、現在多くの人が持つ「ヒップホップファッション」のイメージを決定付けたのがラン・ディーエムシーです。そんな彼らが愛したブランドがアディダス。ブラックボディにレッドやホワイト、ゴールドのストライプが入ったアディダスのトラックスーツを着て、スニーカー「スーパースター(SUPERSTAR)」を履く、というのがラン・ディーエムシーを象徴するスタイル。「マイ・アディダス(My Adidas)」というシングルもリリースしているくらいの熱の入れようです。

 そんなラン・ディーエムシーのファッションはとてもクールですが、そのまま真似るのも面白くないかな、という気がします。そこで選んだのが、このオールブラックのレザートラックスーツ。アディダスの象徴であるスリーストライプスやトレフォイルロゴまで、全てが真っ黒なので都会的な印象です。ちゃんとファッションとして着られるのが、個人的に嬉しいポイントです。

 セットアップなので、パンツも当然レザー素材。レザー素材のトラックパンツは珍しいです。ウエストにはゴムと紐を備えていますが、経年劣化で両方ともほとんど使い物にならないので、普通に穿いていると、どんどんずり落ちてしまいます(笑)。近々お直しに出してベルトループを付けてもらうつもりです。

 レザーにも特徴があります。表革とスウェードの切り替えになっているんですが、レザーだからといって「高級な服を着ているぜ!」という感じにならない、良い意味での「チープさ」があるんです。このチープさがあるからこそ、ヒップホップならではのストリート感が生まれるような気がします。

古着のタグから広がる世界

 このセットアップはメイド・イン・コリア。韓国製です。現在、K-POPアーティスト達が発信する韓国ファッションが大人気ですが、そういえば韓国製の服ってほとんど見かけないと思いませんか?おそらく、今日本で売られている新品の服で、韓国製のものはほとんど存在しないはず。しかし、1980年代以前のアメリカ古着では韓国製のアイテムがしばしば見つかります。

 実は、韓国では1980年代までアパレル製造がとても盛んだったんです。韓国でアパレル産業が発展し始めたのは1960年代。当時の政権が積極的に推進し、日本の大手商社のOEMを請け負うことで成長していったようです。1970年代には、香港、EC(European Communities=欧州共同体)を抑えて、世界トップのアパレル輸出国になります。ですが1980年代半ばから、韓国の経済が好況になったことと、政治の民主化によって労働運動が広がったことなどが要因となり、賃金水準が急激に上昇。それに加え、中国などの新興国が安価な労働力を武器に成長し始めたため、韓国のアパレル製造の競争力が低下してしまったんです。そういった理由から、1990年代以降の古着では、韓国製のものはあまり見かけなくなります。このように、何の変哲もないタグから、政治や経済、カルチャーなどの時代背景を深堀りできるのが、古着の面白さでもありますね。

 今回紹介したレザートラックスーツの相場はジャケットは10万円以下、パンツは人気が高く15万円前後です。こういったスポーツブランドアイテムは、一部を除き、まだヴィンテージとしてはそれほど高値になっていません。今では見られない面白いデザインや仕様のアイテムがたくさんあるので、是非探ってみてください。

vol.21 アディダス レザートラックスーツ編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第21回は「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」レザートラックスーツ編。

良い意味の「チープさ」、都会的なラン・ディーエムシースタイル

 長い夏が終わり、ようやく涼しい日が増えてきましたね。重ね着が楽しい秋冬シーズン、どんな服を着ようかと楽しみにしている方も多いと思います。今回紹介する1980年代のアディダスのレザートラックスーツは、この秋冬に僕が是非着たいと思っている一着です。

 トラックスーツというのは、トラックジャケットとトラックパンツのセットアップ、平たく言えばジャージの上下のこと。アディダスのレザートラックスーツと言えば、多くの人が思い浮かべるのがアメリカのヒップホップグループ、ラン・ディーエムシー(Run-D.M.C.)ではないでしょうか。ファーストアルバムがヒップホップで初のゴールドディスクを獲得するなど、数々の音楽的な偉業を達成したミュージシャンであることはもちろん、現在多くの人が持つ「ヒップホップファッション」のイメージを決定付けたのがラン・ディーエムシーです。そんな彼らが愛したブランドがアディダス。ブラックボディにレッドやホワイト、ゴールドのストライプが入ったアディダスのトラックスーツを着て、スニーカー「スーパースター(SUPERSTAR)」を履く、というのがラン・ディーエムシーを象徴するスタイル。「マイ・アディダス(My Adidas)」というシングルもリリースしているくらいの熱の入れようです。

 そんなラン・ディーエムシーのファッションはとてもクールですが、そのまま真似るのも面白くないかな、という気がします。そこで選んだのが、このオールブラックのレザートラックスーツ。アディダスの象徴であるスリーストライプスやトレフォイルロゴまで、全てが真っ黒なので都会的な印象です。ちゃんとファッションとして着られるのが、個人的に嬉しいポイントです。

 セットアップなので、パンツも当然レザー素材。レザー素材のトラックパンツは珍しいです。ウエストにはゴムと紐を備えていますが、経年劣化で両方ともほとんど使い物にならないので、普通に穿いていると、どんどんずり落ちてしまいます(笑)。近々お直しに出してベルトループを付けてもらうつもりです。

 レザーにも特徴があります。表革とスウェードの切り替えになっているんですが、レザーだからといって「高級な服を着ているぜ!」という感じにならない、良い意味での「チープさ」があるんです。このチープさがあるからこそ、ヒップホップならではのストリート感が生まれるような気がします。

古着のタグから広がる世界

 このセットアップはメイド・イン・コリア。韓国製です。現在、K-POPアーティスト達が発信する韓国ファッションが大人気ですが、そういえば韓国製の服ってほとんど見かけないと思いませんか?おそらく、今日本で売られている新品の服で、韓国製のものはほとんど存在しないはず。しかし、1980年代以前のアメリカ古着では韓国製のアイテムがしばしば見つかります。

 実は、韓国では1980年代までアパレル製造がとても盛んだったんです。韓国でアパレル産業が発展し始めたのは1960年代。当時の政権が積極的に推進し、日本の大手商社のOEMを請け負うことで成長していったようです。1970年代には、香港、EC(European Communities=欧州共同体)を抑えて、世界トップのアパレル輸出国になります。ですが1980年代半ばから、韓国の経済が好況になったことと、政治の民主化によって労働運動が広がったことなどが要因となり、賃金水準が急激に上昇。それに加え、中国などの新興国が安価な労働力を武器に成長し始めたため、韓国のアパレル製造の競争力が低下してしまったんです。そういった理由から、1990年代以降の古着では、韓国製のものはあまり見かけなくなります。このように、何の変哲もないタグから、政治や経済、カルチャーなどの時代背景を深堀りできるのが、古着の面白さでもありますね。

 今回紹介したレザートラックスーツの相場はジャケットは10万円以下、パンツは人気が高く15万円前後です。こういったスポーツブランドアイテムは、一部を除き、まだヴィンテージとしてはそれほど高値になっていません。今では見られない面白いデザインや仕様のアイテムがたくさんあるので、是非探ってみてください。