代表取締役 十倍直昭
2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
https://www.instagram.com/naoaki_tobe/【令和のマストバイヴィンテージ Vol.14】
by Naoaki Tobevol.14 エルエルビーン デラックス・ボート・アンド・トート編
とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。
でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第12回は「マルタン マルジェラ(Martin Margiela)」のペンキデニムジャケット編。
ヴィンテージにマッチするバッグの筆頭格、デラックス・ボート・アンド・トート
突然ですが、皆さんはどんなバッグを使っていますか? かくいう僕は、好きなヴィンテージアイテムにぴったりマッチするバッグを長い間見つけられずにいたんですが、それを解決してくれたのがエルエルビーンの大定番バッグ「デラックス・ボート・アンド・トート」です。「ボート・アンド・トート」というネーミングが有名ですが、今回ご紹介するカラーボディのアイテムの正式名称はデラックス・ボート・アンド・トートで、生まれたのは1980年代。僕が愛用しているのも、その頃製造されたものです。
僕が感じるボート・アンド・トートの一番の魅力は、収納力の高さ。僕は持ち歩く荷物が非常に多いんです。仕事道具や資料はもちろん、飲み物やジムのグッズなど、かなりの量の荷物を毎日持ち歩いていて、普通のバッグだとパンパンになってしまうんですが、ボート・アンド・トートはそれらを全部すっぽりとスマートに収めてくれるんです。
現在、ボート・アンド・トートには様々な派生モデルが生まれていますが、最もオーソドックスなタイプは、S、M、L、XLの4サイズ展開。僕が愛用しているのはLサイズですが、荷物がそれほど多くない人はMサイズでも良いかもしれません。
中に入れる荷物の量に関わらず、形が崩れにくいのもポイント。一般的なトートバッグは、床に置いたときにヘナっと崩れてきてしまうことがありますが、ボート・アンド・トートは生地が非常に頑丈なので、ちょっとやそっとで崩れることはありません。
今も頑なに「MADE IN USA」を貫く
エルエルビーンは、1912年にアメリカのメイン州で創業されました。メイン州はアメリカの北東部、カナダと大西洋に隣接した場所にあります。海、湖、山、森と、自然がとても豊かで、ハイキングやカヌーなどのアウトドアも盛んです。創業のきっかけとなったのが、ぬかるんだ地面でもハンティングを楽しめるようにと創業者が開発したハンティングブーツ、通称「ビーン・ブーツ」。ボート・アンド・トートと並んで今もエルエルビーンの大定番アイテムとして愛されています。ボート・アンド・トートが生まれたのは1944年。この頃はまだ電気冷蔵庫が普及しておらず、冬の間に凍った湖の氷を家に運んで冷蔵に使っていたそうですが、氷の運搬に使われていた厚手のキャンバスバッグから着想を得たのが、ボート・アンド・トートなんです。
ボート・アンド・トートは、今もアメリカのメイン州にあるエルエルビーンの自社工場で製造されており、全てがMADE IN USAです。多くのアメリカ製品に共通して言えることなんですが、縫製などの細かい作りが結構ラフなんですよね(笑)。でもこれは悪口ではなくて。そのラフさの中に、アメリカらしい「味」があるんです。
今回ご紹介している1980年代のボート・アンド・トートのタグは、端がギザギザに処理されているため「ギザタグ」と呼ばれています。
僕がボート・アンド・トートをついヘビロテしてしまう理由は、使い勝手の良さだけではありません。毎日のように穿いているインディゴカラーのデニムパンツと相性の良い、ネイビーが使われていることもポイントです。一番人気のカラーはネイビー×グリーンですが、どのカラーも経年変化を重ねることで非常に良い雰囲気になっていきますし、一見派手に見えるカラーでも割とすんなりコーディネートに溶け込んでくれます。ボート・アンド・トートには生成りカラーもありますが、僕は使い込んでいくうちに自分だけの色合いに成長していくカラーの方が好きですね。
ちなみに、ボート・アンド・トートが汚れたときは、お風呂場で台所用洗剤と重曹を混ぜ合わせたオリジナルの洗剤を使って洗っています。洗うと生地にハリが戻るのも嬉しいです。
今回紹介したボート・アンド・トートですが、現在かなり市場価格が高騰しています。カラーや状態によりますが、1980年代のアイテムは安くても6万円台、高いものだと10万円以上の値がつくことも。とはいえ、まだ手が届く価格帯ではあるので、気になる方はお早めに。
編集:山田耕史 語り:十倍直昭