【令和のマストバイヴィンテージ Vol.12】 今買っておくべき名品は? by  Naoaki Tobe
Category: COLUMN
「マルタン・マルジェラ」ペンキデニムジャケット
前立の裏側や裾には、インディゴ色のデニム生地が見える
ポケットと前立のボタンは装飾のないプレーンなものに換えられている
脇のオレンジのステッチは一度解かれ、黒いステッチで縫い直されている
当時のインポーターだった「(株)オリゾンティ」が表記されていることから、1998年から2000年頃のアイテムであると推測できる
「MADE IN FRANCCE」と表記されたタグ
首元の4つの白いステッチも、マルタン・マルジェラを象徴するデザイン
VCM inc./
代表取締役 十倍直昭

2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。

https://www.instagram.com/naoaki_tobe/
release date

【令和のマストバイヴィンテージ Vol.12】
今買っておくべき名品は?

by Naoaki Tobe
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by Naoaki Tobe

vol.12 マルタン・マルジェラ ペンキデニムジャケット編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第12回は「マルタン マルジェラ(Martin Margiela)」のペンキデニムジャケット編。

マルタン・マルジェラの創造性を象徴するシグネチャーアイテム

 ヴィンテージというと、「リーバイス(Levi’s®)」や「チャンピオン(Champion)」などのオーセンティックなアメリカブランドを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、近年はヴィンテージの範囲がどんどん拡大しています。これまでヴィンテージのカテゴリではなかったデザイナーズブランドでも、ヴィンテージ的な価値が見出され、「デザイナーズアーカイヴ」と呼ばれるようになったものが数多くあるんです。

 「デザイナーズアーカイヴ」の代表例とも言える「マルタン マルジェラ」には、世界中に熱狂的なファンが多数存在します。その理由は、デザイナー マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)がファッション業界の常識を根底から覆した、革命的なデザイナーだからです。「シャネル(CHANEL)」を創業したココ・シャネル(Coco Chanel)や、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」の川久保玲らと同様に、後進のファッションデザイナーからも強いリスペクトを受け続けています。

 大袈裟な前置きになってしまいましたが、今回ご紹介するのはブランドのシグネチャーとも言えるペンキデニムジャケット。パッと見はベーシックなデニムジャケットです。

 しかし、このベーシックなデニムジャケットには、マルタン・マルジェラの創造性が隠れています。一番のポイントはその名の通り、デニムジャケットの表側に黒色のペンキを塗っていることでしょう。

 「古着にペンキを塗ることに、どういう創造性があるの?」と考える人もいるかもしれません。確かに、今でこそデザイナーズブランドが古着のリメイクをすることなんて特に珍しくもありませんが、マルタン・マルジェラが活動を始めた1980年代終盤では、非常に斬新な試みでした。マルタン・マルジェラのクリエイションを語る上で欠かせないキーワードが「再構築」です。靴下を解体してドレスにしたり、ガラクタでアクセサリーを作ったりと、型にはまらない自由な発想で服作りをするマルタン・マルジェラの創造性を象徴するのが、このペンキデニムなんです。ペンキデニムのジャケットは「リーバイス(Levi’s®)」「リー(Lee)」、「ラングラー(Wrangler)」などの様々ブランドの古着デニムジャケットがベースになっており、シルエットやディテールも多岐にわたります。

 先ほど「デニムジャケットにペンキを塗っている」と、このアイテムを紹介しましたが、厳密にはデニムジャケットにペンキを塗っただけではありません。ボタンは全て付け替えられており、シルエットも微妙にリサイズされています。一見普通のデニムジャケットですが、その中にマルタン・マルジェラならではの美意識が見え隠れしているんです。

カリスマデザイナー マルタン・マルジェラ、「伝説」の行方に注目

 マルタン・マルジェラは、1997年に「エルメス(HERMÈS)」のウィメンズデザイナーに抜擢されます。老舗メゾンのなかでどちらかというと保守的なイメージが強かったエルメスが、アヴァンギャルドな作風のマルタン・マルジェラをウィメンズプレタポルテのデザイナーに起用したことは、当時大きな話題となりました。マルタン・マルジェラによるエルメスのコレクションは、発表時は賛否両論あったものの、現在はヴィンテージとして非常に高い評価を得ています。

 マルタン・マルジェラは、2008年にファッション業界を引退しました。元々、彼はメディアに一切顔出しをせず、インタビューもほとんど受けずに活動していたため、そのアノニマスな印象がファンの心を掴んでいましたが、去り際が潔く鮮やかだったこともあり、今は伝説的なデザイナーになっています。

 ペンキデニムジャケットの現在の相場は約30万円前後(サイズや状態、年代などにより変動)。現在はアーティストとして活動しているマルタン・マルジェラ本人による服が今後新たに展開される可能性は、限りなく低いでしょう。ヴィンテージ愛好家はブランドネームだけでなく、「誰が手掛けたアイテムか」という部分を重視します。マルタン・マルジェラが手掛けたアイテムはどんどん市場から数を減らしているので、今後の「伝説」の行方によっては、ペンキデニムジャケットを含むそれらのアイテムの価値が更に高騰することは充分に考えられますね。

編集:山田耕史 語り:十倍直昭

vol.12 マルタン・マルジェラ ペンキデニムジャケット編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式でご紹介。第12回は「マルタン マルジェラ(Martin Margiela)」のペンキデニムジャケット編。

前立の裏側や裾には、インディゴ色のデニム生地が見える

マルタン・マルジェラの創造性を象徴するシグネチャーアイテム

 ヴィンテージというと、「リーバイス(Levi’s®)」や「チャンピオン(Champion)」などのオーセンティックなアメリカブランドを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、近年はヴィンテージの範囲がどんどん拡大しています。これまでヴィンテージのカテゴリではなかったデザイナーズブランドでも、ヴィンテージ的な価値が見出され、「デザイナーズアーカイヴ」と呼ばれるようになったものが数多くあるんです。

 「デザイナーズアーカイヴ」の代表例とも言える「マルタン マルジェラ」には、世界中に熱狂的なファンが多数存在します。その理由は、デザイナー マルタン・マルジェラ(Martin Margiela)がファッション業界の常識を根底から覆した、革命的なデザイナーだからです。「シャネル(CHANEL)」を創業したココ・シャネル(Coco Chanel)や、「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」の川久保玲らと同様に、後進のファッションデザイナーからも強いリスペクトを受け続けています。

 大袈裟な前置きになってしまいましたが、今回ご紹介するのはブランドのシグネチャーとも言えるペンキデニムジャケット。パッと見はベーシックなデニムジャケットです。

 しかし、このベーシックなデニムジャケットには、マルタン・マルジェラの創造性が隠れています。一番のポイントはその名の通り、デニムジャケットの表側に黒色のペンキを塗っていることでしょう。

 「古着にペンキを塗ることに、どういう創造性があるの?」と考える人もいるかもしれません。確かに、今でこそデザイナーズブランドが古着のリメイクをすることなんて特に珍しくもありませんが、マルタン・マルジェラが活動を始めた1980年代終盤では、非常に斬新な試みでした。マルタン・マルジェラのクリエイションを語る上で欠かせないキーワードが「再構築」です。靴下を解体してドレスにしたり、ガラクタでアクセサリーを作ったりと、型にはまらない自由な発想で服作りをするマルタン・マルジェラの創造性を象徴するのが、このペンキデニムなんです。ペンキデニムのジャケットは「リーバイス(Levi’s®)」「リー(Lee)」、「ラングラー(Wrangler)」などの様々ブランドの古着デニムジャケットがベースになっており、シルエットやディテールも多岐にわたります。

 先ほど「デニムジャケットにペンキを塗っている」と、このアイテムを紹介しましたが、厳密にはデニムジャケットにペンキを塗っただけではありません。ボタンは全て付け替えられており、シルエットも微妙にリサイズされています。一見普通のデニムジャケットですが、その中にマルタン・マルジェラならではの美意識が見え隠れしているんです。

ポケットと前立のボタンは装飾のないプレーンなものに換えられている

カリスマデザイナー マルタン・マルジェラ、「伝説」の行方に注目

 マルタン・マルジェラは、1997年に「エルメス(HERMÈS)」のウィメンズデザイナーに抜擢されます。老舗メゾンのなかでどちらかというと保守的なイメージが強かったエルメスが、アヴァンギャルドな作風のマルタン・マルジェラをウィメンズプレタポルテのデザイナーに起用したことは、当時大きな話題となりました。マルタン・マルジェラによるエルメスのコレクションは、発表時は賛否両論あったものの、現在はヴィンテージとして非常に高い評価を得ています。

 マルタン・マルジェラは、2008年にファッション業界を引退しました。元々、彼はメディアに一切顔出しをせず、インタビューもほとんど受けずに活動していたため、そのアノニマスな印象がファンの心を掴んでいましたが、去り際が潔く鮮やかだったこともあり、今は伝説的なデザイナーになっています。

 ペンキデニムジャケットの現在の相場は約30万円前後(サイズや状態、年代などにより変動)。現在はアーティストとして活動しているマルタン・マルジェラ本人による服が今後新たに展開される可能性は、限りなく低いでしょう。ヴィンテージ愛好家はブランドネームだけでなく、「誰が手掛けたアイテムか」という部分を重視します。マルタン・マルジェラが手掛けたアイテムはどんどん市場から数を減らしているので、今後の「伝説」の行方によっては、ペンキデニムジャケットを含むそれらのアイテムの価値が更に高騰することは充分に考えられますね。

編集:山田耕史 語り:十倍直昭

脇のオレンジのステッチは一度解かれ、黒いステッチで縫い直されている