【令和のマストバイヴィンテージ Vol.34】 今買っておくべき名品は? by  Naoaki Tobe
Category: COLUMN
111MJはプリーツありのボタンタイプでサイドにアジャスター、内側にゴムバンドを備えている
1960年代の11MJZは前期がブルー、後期がグレーのゴムで、後期のトップボタンにはスナップボタンが用いられている
デニムジャケットにジッパーを使ったモデルが多いのもラングラーの特徴
VCM inc./
代表取締役 十倍直昭

2008年にセレクトヴィンテージショップ「グリモワール(Grimoire)」をオープンしたのち、2021年にはヴィンテージ総合プラットフォーム VCMを立ち上げ、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。また、渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」やアポイントメント制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLEY」を運営。2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、"価値あるヴィンテージを後世に残していく"ことをコンセプトに、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、ヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。

https://www.instagram.com/naoaki_tobe/
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【令和のマストバイヴィンテージ Vol.34】
今買っておくべき名品は?

by Naoaki Tobe
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by Naoaki Tobe

vol.34 ラングラー デニムジャケット編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式で紹介。第34回は「ラングラー(Wrangler)」 デニムジャケット編。

世界初のデザイナーズジーンズブランド、ラングラー

 ヴィンテージデニム三大ブランドと言えば、「リーバイス(Levi’s®)」、「リー(Lee)」、そしてラングラー。そのなかでもリーバイスには「王道」というイメージがありますが、ラングラーにはファッション通をうならせる要素が備わったブランドなんです。そのなかでも今回は、ラングラーのデニムジャケットにフォーカスしてみましょう。ラングラーのデニムジャケットにまつわるエピソードで最初に挙げたいのが、あのジョン・レノン(John Lennon)が愛用していたことです。彼が着用していたと言われているのが、1947年に発売された「111MJ」というモデル。リーバイスのデニムジャケットではファースト、セカンドという通称がありますが、ラングラーの場合はこの111MJがファーストと呼ばれています。

 稀代のミュージシャンが惹かれたブランドの魅力を知るために、その歴史をざっと紐解いてみましょう。そもそもジーンズというアイテムは、1848年にアメリカ・カリフォルニアで起こったゴールドラッシュをきっかけに生まれました。当時のジーンズに用いられていたデニム生地には、洗うと縮んでしまうという欠点があったのですが、1904年に創業したラングラーの前身であるブルーベル・オーバーオール社は、1931年に防縮加工を施したサンフォライズド・デニムを開発し、デニム界に革命を起こします。その後、ブルーベル社はミリタリーウェアの製造を手掛けることで事業を拡大しますが、1945年に第二次世界大戦が終わり、軍からの需要が見込めなくなったため、1947年に新たに打ち出したブランドがラングラーでした。その頃のリーバイスとリーは、炭鉱夫や農夫、鉄道員や工場労働者らが多く着用していたため、ワークウェアのブランドというイメージがありました。それに対抗するためにラングラーが目をつけたのが、「ウエスタン」です。この連載のウエスタンジャケットの記事でも触れましたが、ウエスタンを象徴する存在である西部劇の映画は、20世紀初頭からアメリカで人気のコンテンツでした。そこで、ラングラーはハリウッドの西部劇映画の衣装を手掛けていたロデオ・ベン(Rodeo Ben)を、デザイナーに起用したのです。それまでのジーンズブランドには、デザイナーはいませんでした。つまり、ラングラーのジーンズは、“世界初のデザイナーズジーンズ”と言えるのです。

ラングラーのデニム、リーバイスとの違いとは?

 次にラングラーの「11MJZ」というデニムジャケットを紹介しましょう。モデル名のMはメンズ、Jはジャケット、Zはフロントに付けられたジッパーを意味します。こちらは1960年代に製造された個体ですが、この時代では珍しく両サイドにハンドポケットが付いており、胸ポケットには、「W」を象ったステッチが施されています。弓形を描いたアーキュエイトステッチがリーバイスのアイコンなのに対し、ラングラーは「サイレントW」と呼ばれるこのステッチがブランドアイコンです。リーバイスやリーではあまり見かけない胸ポケットのペン差し穴も面白いディテールですね。

 ラングラーのヴィンテージデニムジャケット最大の特徴が、内側に配されたゴムバンドと、背面の肩部分に設けられたアクションプリーツです。これらのディテールにより、ラングラーのデニムジャケットは体にフィットしたスタイリッシュなシルエットでありながら、カウボーイの激しい動きにも対応できる広い可動域を実現しました。

 最後に紹介するのは1970年代につくられた「24MJZ」で、ゴムベルトが用いられたのはこのモデルが最後。もうひとつ、ラングラーのデザインの特徴として挙げられるのが、フロントのプリーツとそれを留める丸型のかんぬきステッチです。ラングラーのデニムはリーバイスと比べると、まろやかな色落ちをするという特徴もあります。これは、一般的なデニム生地が右綾であるのに対し、ラングラーは左綾であることによるもの。左綾は生地がフラットな仕上がりになるので、ソフトな表情が生まれるんです。

 ヴィンテージ市場で人気が高いのはやはりリーバイスですが、ラングラーのアイテムは流通量が少ないにも関わらず、かなり手頃な価格で入手することができます。状態やサイズによりますが、「111MJ」は30〜100万円くらい、「11MJZ」は15〜30万円くらい、「24MJZ」は5〜15万円くらいが相場です。古着の価値は希少性や、市場での人気度だけではありません。たくさんのアイテムを知り、触れることで、自分だけの素敵な一着を見つけてください。

vol.34 ラングラー デニムジャケット編

 とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。

 でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式で紹介。第34回は「ラングラー(Wrangler)」 デニムジャケット編。

世界初のデザイナーズジーンズブランド、ラングラー

 ヴィンテージデニム三大ブランドと言えば、「リーバイス(Levi’s®)」、「リー(Lee)」、そしてラングラー。そのなかでもリーバイスには「王道」というイメージがありますが、ラングラーにはファッション通をうならせる要素が備わったブランドなんです。そのなかでも今回は、ラングラーのデニムジャケットにフォーカスしてみましょう。ラングラーのデニムジャケットにまつわるエピソードで最初に挙げたいのが、あのジョン・レノン(John Lennon)が愛用していたことです。彼が着用していたと言われているのが、1947年に発売された「111MJ」というモデル。リーバイスのデニムジャケットではファースト、セカンドという通称がありますが、ラングラーの場合はこの111MJがファーストと呼ばれています。

 稀代のミュージシャンが惹かれたブランドの魅力を知るために、その歴史をざっと紐解いてみましょう。そもそもジーンズというアイテムは、1848年にアメリカ・カリフォルニアで起こったゴールドラッシュをきっかけに生まれました。当時のジーンズに用いられていたデニム生地には、洗うと縮んでしまうという欠点があったのですが、1904年に創業したラングラーの前身であるブルーベル・オーバーオール社は、1931年に防縮加工を施したサンフォライズド・デニムを開発し、デニム界に革命を起こします。その後、ブルーベル社はミリタリーウェアの製造を手掛けることで事業を拡大しますが、1945年に第二次世界大戦が終わり、軍からの需要が見込めなくなったため、1947年に新たに打ち出したブランドがラングラーでした。その頃のリーバイスとリーは、炭鉱夫や農夫、鉄道員や工場労働者らが多く着用していたため、ワークウェアのブランドというイメージがありました。それに対抗するためにラングラーが目をつけたのが、「ウエスタン」です。この連載のウエスタンジャケットの記事でも触れましたが、ウエスタンを象徴する存在である西部劇の映画は、20世紀初頭からアメリカで人気のコンテンツでした。そこで、ラングラーはハリウッドの西部劇映画の衣装を手掛けていたロデオ・ベン(Rodeo Ben)を、デザイナーに起用したのです。それまでのジーンズブランドには、デザイナーはいませんでした。つまり、ラングラーのジーンズは、“世界初のデザイナーズジーンズ”と言えるのです。

111MJはプリーツありのボタンタイプでサイドにアジャスター、内側にゴムバンドを備えている

ラングラーのデニム、リーバイスとの違いとは?

 次にラングラーの「11MJZ」というデニムジャケットを紹介しましょう。モデル名のMはメンズ、Jはジャケット、Zはフロントに付けられたジッパーを意味します。こちらは1960年代に製造された個体ですが、この時代では珍しく両サイドにハンドポケットが付いており、胸ポケットには、「W」を象ったステッチが施されています。弓形を描いたアーキュエイトステッチがリーバイスのアイコンなのに対し、ラングラーは「サイレントW」と呼ばれるこのステッチがブランドアイコンです。リーバイスやリーではあまり見かけない胸ポケットのペン差し穴も面白いディテールですね。

 ラングラーのヴィンテージデニムジャケット最大の特徴が、内側に配されたゴムバンドと、背面の肩部分に設けられたアクションプリーツです。これらのディテールにより、ラングラーのデニムジャケットは体にフィットしたスタイリッシュなシルエットでありながら、カウボーイの激しい動きにも対応できる広い可動域を実現しました。

 最後に紹介するのは1970年代につくられた「24MJZ」で、ゴムベルトが用いられたのはこのモデルが最後。もうひとつ、ラングラーのデザインの特徴として挙げられるのが、フロントのプリーツとそれを留める丸型のかんぬきステッチです。ラングラーのデニムはリーバイスと比べると、まろやかな色落ちをするという特徴もあります。これは、一般的なデニム生地が右綾であるのに対し、ラングラーは左綾であることによるもの。左綾は生地がフラットな仕上がりになるので、ソフトな表情が生まれるんです。

 ヴィンテージ市場で人気が高いのはやはりリーバイスですが、ラングラーのアイテムは流通量が少ないにも関わらず、かなり手頃な価格で入手することができます。状態やサイズによりますが、「111MJ」は30〜100万円くらい、「11MJZ」は15〜30万円くらい、「24MJZ」は5〜15万円くらいが相場です。古着の価値は希少性や、市場での人気度だけではありません。たくさんのアイテムを知り、触れることで、自分だけの素敵な一着を見つけてください。