代表取締役 十倍直昭
2008年よりヴィンテージショップを運営。その後2021年には、ヴィンテージ総合プラットフォーム VCM(@vcm_vintagecollectionmall)を立ち上げ、来場者を1万人以上を動員する、日本最大級のヴィンテージの祭典「VCM VINTAGE MARKET」を主催している。 また渋谷パルコにて、マーケット型ショップの「VCM MARKET BOOTH」、エルメスジュエリーを専門に取り扱う予約制ショップ「VCM COLLECTION STORE」、イベントスペース「VCM GALLERY」を運営。 2023年10月には初の書籍「Vintage Collectables by VCM」を刊行するなど、ヴィンテージを軸とした様々な分野で活動し、全国のヴィンテージショップとファンを繋げる場の提供や情報発信を行っている。
https://www.instagram.com/naoaki_tobe/【令和のマストバイヴィンテージ Vol.35】
by Naoaki Tobevol.35 ASAT トライバルカモフラージュ編
とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。
でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式で紹介。第35回は「 ASAT トライバルカモフラージュ」編。
戦地で“ボツ”になったカモ柄、活路は「ハンティングカルチャー」
ヴィンテージ古着には、様々なジャンルがあります。そのなかでも長年高い人気を集め続けているのが、ミリタリーウェア。極限状態での着用を想定された機能性の高さに、マニア心をくすぐられる方は多いみたいです。また、ミリタリーウェアをあえてファッションアイテムとして着用することで、反戦を訴えるといった表現方法もありますね。と言っても、今回ピックアップしたのは純然たるミリタリーウェアではありません。ミリタリーに出自を持つ、ASATのトライバルカモフラージュアイテムです。
ASATはアメリカのブリゲード・クオーターマスターズ社(Brigade Quartermasters)が、アメリカ軍に納入するために1990年代に開発したカモフラージュ柄のことです。ASATはAll Season All Terrainの略で、「すべての季節・すべての地形に対応する」という意味。一般的には「アサット」と呼ばれています。そもそも、カモフラージュ柄は周囲の風景や地形に溶け込むように着用者の輪郭や色彩をぼかすことで、敵から視認されにくくするために用いられました。兵士が地形や光の条件に合わせて目立ちにくい色や模様を組み合わせたカモフラージュ柄を使うことで、偵察や攻撃を受けにくくする、というのが主な目的ですが、ASATは実際にテストしてみると「目立ちすぎる」という理由で、アメリカ軍が採用を見送ったと言われています。つまり、“ボツ”にされたカモフラージュ柄なんです。
しかし、そんなASATにも活路がありました。戦場には向かなかったASATですが、ハンティング(狩猟)シーンでは森や草原で動物から身を隠すときに、カモフラージュ柄としての効果を発揮したのです。ハンティングは、アメリカに広く根付いているカルチャーのひとつ。先住民族の狩猟による食料や生活必需品の確保から始まり、その後ヨーロッパからの入植者が到来した際は、新たな土地で生きていくうえでの手段として狩猟が行われるようになりました。フロンティアの開拓期においては、広大な森林や野生動物資源が豊富だったため、誰でも比較的自由に狩猟を行うことが可能でした。こうした環境から、「自立」「開拓者精神」「自然との共生」といった価値観が育まれ、アメリカの文化の一端を形作っていきます。現代のアメリカにおいて、ハンティングは「家族や仲間との伝統的な行事」として行われる一方で、野生動物の管理(頭数調整)や各州の保護区の維持費確保、地域経済の活性化にも貢献しています。ハンターたちは狩猟によって得られる肉や毛皮などを利用するだけでなく、自然保護や生態系維持の一翼を担う存在ともなっているのです。こうした背景から、アメリカ社会においてハンティングはスポーツ、伝統、そして保全活動の要素が複雑に絡み合った独自の文化として発展してきました。
シュプリームやナンバーナインもサンプリング、ASATの相場は?
ASATはカルチャー的なストーリーを持つだけでなく、ファッション的にも注目度が高いモチーフです。ストリートブランドの雄として君臨する「シュプリーム(Supreme)」や、日本を代表するファッションデザイナー 宮下貴浩が手掛けていた「ナンバーナイン(NUMBER (N)INE)」などの名だたるブランドが、ASATをサンプリングしたアイテムを打ち出しています。一見派手に見えますが、使われているのはどれも落ち着きのある色ばかりなので、意外と着こなしやすいのも特徴です。
今回ピックアップしたのは、ASAT Camouflageという企業が製造したアイテム。同社のサイトを見ると、トライバルカモに身を包んだハンター達の写真が沢山アップされています。現行品もありますが、ヴィンテージ好きとしては1990〜2000年代のアメリカ製アイテムが気になるところ。グレーベースのアイテムは非常に珍しいので相場は高めですが、それ以外でしたらジャケットで2万円くらいから、パンツで1万円くらいからと、手を出しやすい価格帯なので、是非一度試してみてください。
vol.35 ASAT トライバルカモフラージュ編
とどまることを知らない未曾有の古着ブーム。歴史的背景を持つヴィンテージの価値も高騰を続け、一着に数千万円なんて価格が付くこともしばしば。「こうなってしまってはもう、ヴィンテージは一部のマニアやお金持ちしか楽しめないのか・・・」と諦める声も聞こえてきそうです。
でも、そんなことはありません。実は、現時点で価格が高騰しきっておらず、ヴィンテージとしての楽しみも味わえる隠れた名品もまだまだ存在します。この企画では、そんなアイテムを十倍直昭自身が「令和のマストバイヴィンテージ」として毎週金曜日に連載形式で紹介。第35回は「 ASAT トライバルカモフラージュ」編。
戦地で“ボツ”になったカモ柄、活路は「ハンティングカルチャー」
ヴィンテージ古着には、様々なジャンルがあります。そのなかでも長年高い人気を集め続けているのが、ミリタリーウェア。極限状態での着用を想定された機能性の高さに、マニア心をくすぐられる方は多いみたいです。また、ミリタリーウェアをあえてファッションアイテムとして着用することで、反戦を訴えるといった表現方法もありますね。と言っても、今回ピックアップしたのは純然たるミリタリーウェアではありません。ミリタリーに出自を持つ、ASATのトライバルカモフラージュアイテムです。
ASATはアメリカのブリゲード・クオーターマスターズ社(Brigade Quartermasters)が、アメリカ軍に納入するために1990年代に開発したカモフラージュ柄のことです。ASATはAll Season All Terrainの略で、「すべての季節・すべての地形に対応する」という意味。一般的には「アサット」と呼ばれています。そもそも、カモフラージュ柄は周囲の風景や地形に溶け込むように着用者の輪郭や色彩をぼかすことで、敵から視認されにくくするために用いられました。兵士が地形や光の条件に合わせて目立ちにくい色や模様を組み合わせたカモフラージュ柄を使うことで、偵察や攻撃を受けにくくする、というのが主な目的ですが、ASATは実際にテストしてみると「目立ちすぎる」という理由で、アメリカ軍が採用を見送ったと言われています。つまり、“ボツ”にされたカモフラージュ柄なんです。
しかし、そんなASATにも活路がありました。戦場には向かなかったASATですが、ハンティング(狩猟)シーンでは森や草原で動物から身を隠すときに、カモフラージュ柄としての効果を発揮したのです。ハンティングは、アメリカに広く根付いているカルチャーのひとつ。先住民族の狩猟による食料や生活必需品の確保から始まり、その後ヨーロッパからの入植者が到来した際は、新たな土地で生きていくうえでの手段として狩猟が行われるようになりました。フロンティアの開拓期においては、広大な森林や野生動物資源が豊富だったため、誰でも比較的自由に狩猟を行うことが可能でした。こうした環境から、「自立」「開拓者精神」「自然との共生」といった価値観が育まれ、アメリカの文化の一端を形作っていきます。現代のアメリカにおいて、ハンティングは「家族や仲間との伝統的な行事」として行われる一方で、野生動物の管理(頭数調整)や各州の保護区の維持費確保、地域経済の活性化にも貢献しています。ハンターたちは狩猟によって得られる肉や毛皮などを利用するだけでなく、自然保護や生態系維持の一翼を担う存在ともなっているのです。こうした背景から、アメリカ社会においてハンティングはスポーツ、伝統、そして保全活動の要素が複雑に絡み合った独自の文化として発展してきました。
シュプリームやナンバーナインもサンプリング、ASATの相場は?
ASATはカルチャー的なストーリーを持つだけでなく、ファッション的にも注目度が高いモチーフです。ストリートブランドの雄として君臨する「シュプリーム(Supreme)」や、日本を代表するファッションデザイナー 宮下貴浩が手掛けていた「ナンバーナイン(NUMBER (N)INE)」などの名だたるブランドが、ASATをサンプリングしたアイテムを打ち出しています。一見派手に見えますが、使われているのはどれも落ち着きのある色ばかりなので、意外と着こなしやすいのも特徴です。
今回ピックアップしたのは、ASAT Camouflageという企業が製造したアイテム。同社のサイトを見ると、トライバルカモに身を包んだハンター達の写真が沢山アップされています。現行品もありますが、ヴィンテージ好きとしては1990〜2000年代のアメリカ製アイテムが気になるところ。グレーベースのアイテムは非常に珍しいので相場は高めですが、それ以外でしたらジャケットで2万円くらいから、パンツで1万円くらいからと、手を出しやすい価格帯なので、是非一度試してみてください。